映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
児童虐待問題を、12歳の未成年を演じる成人女性3人がオンラインチャットに登録するリアリティ・ショーの模様を通して描き、本国チェコで波紋を呼んだドキュメンタリー映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』が4月23日（金）よりヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほかにて公開。webDICEではビート・クルサーク監督とバーラ・ハルポバー監督のインタビューを掲載する。
3人の女優が12歳の女子の設定でSNSで友達募集をすると、彼女たちにコンタクトをしてきたのは、2,458人もの成人男性だった。精神科医、性科学者、弁護士や警備員など専門家による万全のケアのもと、撮影は10日間にわたり続けられた。今回のインタビューでは制作の経緯やチェコでの公開時の観客の反応などが語られている。
「社会全体での議論を開始し、ネット上での攻撃者からどう子どもたちを保護するのか、それだけでなく自分たちでどのように守っていくのか、その方法について前向きなアイデアが生み出されることを望みます。子どもたちが危険な状況に遭遇することを忘れないでください」（バーラ・ハルポバー監督）
バーラ・ハルポヴァー監督インタビュー
「当初から“天使のような子どもたち”と“邪悪な男性たち”という白黒のはっきりした構造では見ていませんでした」
──この映画に取り組もうと決めた理由は何でしょうか？
まずインターネット上での子どもの安全に関する統計を初めて見た時、本当に衝撃を受けました。私の想像を超える驚愕の数字でした。しかし、より深くその問題を掘り下げるため、私たちが「12歳の少女・ティンカ」という偽のSNSアカウントを作成した際のショックに比べれば、それは何でもないことでした。5時間で23歳～63歳までの合計83名の男性がティンカにコンタクトを取ってきました。大多数の男性たちは、数回のメッセージを交わした後、明らかな性的言及・性的要求を剥き出しにしました。Skypeを介した相互オナニーの提案も含まれていました。実際、二人の紳士がそれを実行しました。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』バーラ・ハルポヴァー監督（左）、ヴィート・クルサーク監督（右）@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
しかし、質問の回答になる「この作品に取り組もうと思った瞬間」は実際にはもう少し後でした。ヴィートに、前日に目撃したこの出来事を電話で話したところ、彼から更に驚くべき話を聞いたのです。ヴィートの知り合いのとある男性が、自分の娘の携帯電話を偶然見てしまったそうです。彼女はずっと携帯を触っていたのですが、午後の授業があり携帯を置いて学校へ戻っており、父がその携帯を見たところ、メッセンジャーからログアウトしていませんでした。そこに表示されたメッセージを見ると、恐ろしい事に彼女は父の年齢と変わらないほどの男性と親密なやり取りをしていたのです。しかも、自分のヌード写真まで送っていました。彼女が帰宅し、両親は涙ながらに何が起こっているのか問いただしました。そして、遂に彼女が口を割ったのですが、曰く彼女ではなくクラスの女の子たちがこの男とやり取りをしていて、彼女だけがこれまでそうしなかった唯一の人物だったのだと。そのため彼女は嘘の写真をでっち上げたのです。その話しを聞いた時、これは大変なことが起こっていると私は感じました。そんなエロティックなやり取りをしなければ自分がグループから仲間外れにされたりするという、想像以上に複雑で、社会的にも深刻な問題が起きていると知り、この映画に自分も参加したいと思ったのです。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
──映画の手法としてなぜ“嘘”（偽アカウント）から作り上げることにしたのでしょうか？
私達は子ども部屋の中で起きているこの深刻な事態をどう映像として記録するかという、高度なチャレンジに直面しました。オオカミたちが子どもたちと巧妙にコミュニケーションを取りながら、騙したり操ったりする全てのトリックを事細かに、かつ正確に伝えたいと思いました。今回行った撮影方法には倫理的な脆弱性があったのは事実です。その点からも、このプロジェクトに着手した当初から精神科医、性科学者、弁護士や警察といった専門家たちにも相談しました。同時に、観客にとってもフェアでないといけないと思い、私達が抱いた疑問や、うまくいかなかった状況なども含め、このプロジェクトの過程すべてを包み隠さず見せながら、自分たちの力でこの実験全体を進めることにしました。もしインタビューやルポルタージュのつぎはぎで作ったとしたら、いま子どもたちが経験している“実際のこと”を想像すらできなかったでしょう。
──想定と実際の撮影で何か大きな違いはありましたか？
専門家との協議や研究のおかげで、あまり大きな違いは無かったですね。ただ、私をずっと驚かせ続けたものは、撮影中にオオカミたちが女の子に接触するそのスピードでした。いくつかのメッセージを交わした後すぐ、彼らは明らかな性的挑発をしてきました。あと、その数の多さにも驚きました。プロジェクトに参加した女優たちは返信する暇も無いほど、たくさんの男性からビデオチャットのリクエストが届いていました。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
──本作の制作過程で最も難しかったことは？
個人的には編集室での日々でした。スタジオで起きた出来事のすべてや、オオカミと顔を合わせて対面したこと、これらを改めて詳細まで確認することが非常に辛かった。撮影終了後、映像素材を静かに客観的に見ている時、率直に言って人生で二度と見る必要のないものがいくつもありました。ですから当然、制作にあたっての私たちの課題は非常に難しいものになりました。映画でも映っている通りの「気持ちの悪いもの」を、観るに耐え得るものになるよう上手くバランスをとる必要があったということです。
──本作に取り組んだことで、このテーマに対するあなたの見方は変わりましたか？
見方は変わっていないと思います。わたしは当初から“天使のような子どもたち”と“邪悪な男性たち”という白黒のはっきりした構造では見ていませんでしたから。ただ正直に言うと、一つだけ私を非常に驚かせたことがありました。少なくとも10年間以上前から存在していた現象だとは知ってはいましたが、近年、少年少女たちが自分の裸体の価値に気付き、躊躇いもなくそれを売るようになったということです。ただ仲間外れにされたくない、ただ携帯のアプリが買いたい、というような単純な理由のために。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
ヴィート・クルサーク監督インタビュー
「これは私たちのプロジェクトだけで済まされる問題ではない」
──12歳の少女を演じる3名の女優をどんな基準で選びましたか？
私たちは何よりも本物のプロではない女優を探していました。実際、この映画に本当の女優が1名しかいない理由もここにあります。DAMU（映画学校）のテレザ・チェジュカーだけです。サビナ・ドロウハー、アネジュカ・ピタルトヴァーの二人はこれまでカメラに映ったこともありません。ご覧いただいた方々やジャーナリストらから、3人が本当に思春期前の子どもの姿として自然だったという話を聞き、喜びを隠せません。それこそキャスティングの重要な基準だったからです。観客にとっても、彼らが12～13歳であると思わせなければなりませんから。けれど実際は、彼女らと一緒にカフェに行き、ワインも注文できるのです。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』バーラ・ハルポヴァー監督（左）、ヴィート・クルサーク監督（右）@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
──子ども部屋や服装も、彼女たちが12歳であるという印象を与える上で役に立っていましたね。ほかに何か注意したところは？
たくさんありますよ。例えばメイクの担当は、思春期前の少女たちの顔の血行がそれより上の年齢と違っていることをリサーチで知り、そのようなメイクを施しました。またインターネット関係の詳細にも気を使いました。撮影所で女優たち3名は全員プラハの近くにいましたが、各々違う都市にいるようにＰＣの設定を変更しました。また、偽プロフィールの写真は彼女たちが実際に12歳の頃の写真を使いました。それに気候にも気を使いました。撮影のアダムは、その都市の天候に合わせてライティングを細かく調整していました。プルゼニが曇りの時、プルゼニ在住の「12歳のニッキー」の窓の外のライトを少し暗く落としたり。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
──女優たちは12歳の女の子を演じるためどのような準備をしましたか？
まず彼女たちに宿題を与えました。撮影の2週間ほど前に、この映画の設定となる同じ年の少女たちと会って、彼女たちがどんな風に話すのか、どんな風にメールを打つのか、どんなYouTubeを見ているのかなど、徹底的に観察するよう言いました。手抜かりのないよう各自かなり細かいノートを取っていました。テレザは年下のいとこにお願いし、その年の子たちのグループチャットに入れてもらっていました。おかげでテレザは少女たちがどうチャットするのか、どんな略語を使っているのか、使う絵文字やGIF（SNSなどで使う簡易的な動く画像）なども事前に学ぶことができたのです。また、少女たち独特の文字の打ち間違いにも注意を払いました。例えば子どもたちはコンマの後にスペースを入れなかったりしますし、文章の終わりに句読点を打とうと意識していなかったりということもあります。
──本作は本国で公開されるまで数か月間、多くの議論がありました。映画の主題自体がスキャンダルの可能性があったからでしょうか？
おっしゃる通りかと思います。この映画は公開前からある意味で強い注目を集めていました。ただそれと同時に、児童虐待問題を扱うにあたり衝撃的な、恐ろしい、感情的に脅迫感を起こさせるような方法を使うという落とし穴はうまく回避できたと思っています。ハルポヴァーと私は編集室で多くの議論を重ね、この映画が一線を踏み越えないよう各シーンを微調整しました。それは私たちが映画の中でのユーモアを躊躇わなかった理由でもあります。
映画『ＳＮＳ-少女たちの10日間-』@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.
──プレミア上映では観客がかなり笑っていましたね。その点についてどう思われますか？児童虐待の問題を扱っている上で、皮肉ではありませんか？
全国各地で行われた一連のプレミア上映のおかげで、視聴者の多くからフィードバックをいただきました。曰く、こういった映画の中でのユーモアは驚きだったけれど、心地良いものでもあったという声も。また一部の観客、特に女の子たちは、怖くて最後まで見られないのではと思われていた方もいたようです。幸いなことに、そうはなりませんでしたが。女性を狙う捕食者たちが馬鹿げて見えることもしばしあり、時にはまるでパロディのように見えたりもします。そう、笑える瞬間というのが確かにあります。それはある種の息抜きというか安心感としての作用で、だからこそ重いテーマでも最後まで見ることができるのだろうと思います。
──「チェコ警察が映像を要求し、刑事手続きを開始した」と映画でもありましたが、具体的に警察にどのような協力をしたのでしょうか？
このプロジェクトは多くの余白ある実験から生まれています。どんな行動が撮影されるか、一体どこまで行けるのか、撮影前は分かりませんでした。企画書の段階では、これらの男性を犯罪者として扱うのではなく、何よりもまず彼らが子どもたちを巧みに操ろうとするその手法や技術を明らかにし、社会的な議論へと発展させたいという目的でした。しかし、実際にカメラに映ったのは、恐喝と脅迫でした。数名の男性たちは幼児性愛や獣姦もののポルノ等を送り付けてきました。そこで、これは私たちのプロジェクトだけで済まされる問題ではないと判断しました。映像を確認した警察側は完全なプロでした。本作が性的搾取者に向けての強力な抑止力になるであろうと歓迎してくれました。
──この映画で何を変えたいですか？
社会全体での議論を開始し、ネット上での攻撃者からどう子どもたちを保護するのか、それだけでなく自分たちでどのように守っていくのか、その方法について前向きなアイデアが生み出されることを望みます。子どもたちが危険な状況に遭遇することを忘れないでください。また、この映画が報復を扇動するようなことや、何か子どもたちに危害を与えそうと思われるものを禁ずるような流れにはならないことを願います。確かに危険を孕むものに抑圧は適切です。
しかし注力すべきことは防止策です。子供たちが身を屈めてタブレット端末をじっと見ているより、もっと楽しいことがあるということを伝えていくべきなのです。私たちから始めましょう。私も常にスマートフォンに目を細めながらメールを打ったりしています。そしてそれが良くないことだと分かっています。私のため、そして私の子供たちのためにも、そんな姿で彼らに記憶されるのは望ましくないのです。
（オフィシャル・インタビューより）
バーラ・ハルポヴァー
チェコ生まれ。『Thank You Melonik』（2014）で、マグネシア賞・最優秀学生映画賞にノミネート。後にiShorts vol.6短編映画祭とエディンバラ国際映画祭で上映された。次作『Arms Ready』（2016）はPavel Koutecky賞にノミネート、One World FestivalとJi.hlava国際ドキュメンタリー映画祭のコンペティション部門で上映。『A Theory of Equality』（2017）は現代のチェコ共和国における男女平等についての議論を巻き起こし、チェコジャーナルシリーズで上映された。『On the Edge』（2018）では、チェコ共和国の地球平面説に焦点を当てマグネシア賞・学生映画部門の最終候補に選ばれた。『Real(e)state』（2019）では、現在進行中のチェコの住宅危機を描き、One World Festivalでプレミア上映を果たした。最新作『New Oath』では、同性結婚の合法化について描いている。
ヴィート・クルサーク
チェコ生まれ。2006年、FAMUのドキュメンタリー映画学科を卒業。その後、フィリップ・レムンダと一緒に制作会社「Hypermarket Film」を設立。原則として広告を製作せず、ドキュメンタリーを中心とした会社だ。クルサークとレムンダによるドキュメンタリーコメディ『Czech Dream』（2004）は国内外の映画祭で数々の映画賞を受賞し、24ヵ国に及ぶ海外のテレビ局によって放映。またレムンダと監督した『Czech Peace』（2010）はマイケル・ムーア主催のトラバースシティ映画祭でプレミア上映された。映画の批評家と理論家を取り上げた『All for the Good of the World and Nosovice』（2011） ではチェコのアカデミー賞とされるチェコ・ライオンにて最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞。近作に『Matrix AB』（2015）、『The White World According to Dalibor』（2017）など。待機作にレムンダと共同執筆・共同監督の『Once Upon a Time in Poland』（2020）がある。
映画『SNS-少女たちの10日間-』
4月23日（金）よりヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次ロードショー
監督：バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
原案：ヴィート・クルサーク
出演：テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー
配給：ハーク
配給協力：EACH TIME
2020年／チェコ／チェコ語／5.1ch／ビスタサイズ／原題：V siti／104分
